フルバランスアンプ (X_Under bar)

心地よい音を求めて

2019年08月

昨年より話題の旭化成の高性能DAC AK4499EQを昨日Digi-keyから購入してしまいました。
高性能だけあって値段も高価格。w

■ AK4499EQ
20190830_01
画像は、旭化成さんからお借りいたしました。

AK4499EQ:

前回はESSのES9038PROの Quad(4個使い)で、ハイレベルのDAC(DA1)を作る事ができました。
また、追加でNOS(ノン・オーバー・サンプリング)の機能を追加して、音の鮮度が更に増しクリアーな高次元の音を再生できるようになりました。
頒布基板のDACとしては、最高レベルだと思っています。

今回は、旭化成のAK4499 EQで攻めてみたいと思います。
このDACはESSのES9038PROを意識して開発された国産のDACです。

AK4499EQの主な仕様:
最大サンプリング周波数/分解能:PCM 768kHz/32-bit DSD 22.4MHz/1-bit
S/N比 (SNR):134dB (Mono mode: 140dB)
歪み (THD+N):-124dB
サウンドカラーディジタルフィルター:6種類

従来まで旭化成のDACは電圧出力方式でしたが今回は電流出力方式です。
電流出力方式に最適化したローディストーションテクノロジーにより低歪 -124dBを達成とあります。
まあ、歪み特性だけで音質の事は語れませんが、AK4499の性能を何処まで引き出せるかが腕の見せどころです。

AK4499の技術的なポイント:
・データシートの頭に Premium Switched Resistor 4ch DACと有ります。 抵抗切換方式、従来のDACと方式が違うの?

・旭化成のDACは、電源が弱いように感じます。
過去のDAC AK4495やAK4497の電源に容量の大きめな電解コンを入れないと低い周波数でノイズが悪い傾向にあります。

・差動出力の電流がp-pで1チャンネル当たり72.8mAとあります。
ES9038PROと同じようなI/V変換回路を考えないといけません。
AK4499のデータシートでは、OPアンプOPA1612を推奨した回路が掲載されています。
このOPアンプは、レール・ツー・レール出力でオープン・ループ・ゲイン130dB、駆動電流±30mAですので、ぎりぎり使えます。
このへんのOPアンプを使わないと、スペックで謳っているS/Nやdistortion(歪)を確保できないと思います。
まあ、高スペックを求めるならば、このOPアンプ(OPA1612)でも良いでしょう。
スペックではなく音質を最優先で考えた場合は、違ったアプローチが必要と私は思います。

・次に「OPIN」端子と「IOUT」端子です。(下記の図を参照願います)
OPIN : Common Voltage Input pin
IOUT : Currnt Output pin
OPアンプの出力からDACに戻している端子のような、どのような処理をしているのか?
抵抗切換方式に関係があるのか、それとも出力レベルを監視して出力レベルの精度を上げているのかですね。
20190830_02

このデータシートを見ますとAK4499はOPアンプ使用を基本に考えたDACのようです。

また、追って報告します。


以前にも触れましたが既に製造中になっているナショナルセミコンダクター製のOPアンプLH0032の話です。
このOPアンプはセラミック基板上に抵抗体(印刷抵抗)やトランジスタのシリコンチップを置き金ワイヤーで配線されている所謂ハイブリッド型のOPアンプです。(前回と同じ文書ですw)

■LH0032
20190826_01
簡単なスペック:帯域幅(70MHz)、スルーレート(500/μs)、直流利得(70dB)
言い方を変えるとディスクリートのOPアンプと同じです。(これも前回と同じ文書です)
このへんで未だに人気があるのでしょうね。

たまたま、古い資料にLH0032の中身を開けて各素子の電圧を測った資料が有りましたので、回路図に書き写してみました。

■LH0032の実測値
20190826_02
この実測した回路図を見て戴くと抵抗値の違いが若干あります。
ネットを検索するとナショセミのLH0032(1994年12月版)とTIのLH0032(1982年1月版)の仕様書が検索できると思います。
※中身はどちらもナショセミです。
1994年版の物は回路図に数値が入っていませんが、1982年版には数値が入っているので比べて見て下さい。

■1982年版の回路図
20190826_03
気になるのは、初段のQ1とQ2のFETの負荷抵抗です。
1982年版の回路図では500Ωですが、実測値では330Ωとなっています。
そこでこれらの数値を使って実際にシミュレーションを行ってみました。

■回路図のシミュレーション(オープンループゲイン)
20190826_04
緑色が負荷500Ωで赤色が負荷330Ω
オープンループゲイン⇒300Ω:75dB、500Ω:76dB
ゲイン差は1dBですが、カットオフ周波数が大分違います。
330Ω:-3dB=180kHz、500Ω:-3dB=361kHz
500Ωの方が良さそうです。

次に初段(1段目)のFETの部分を見てみましょう。
■回路図のシミュレーション(初段のゲイン)
20190826_05
信号はQ2のドレイン- R2出力側をみています。
こちらもゲイン差は約1dBですが、カットオフ周波数が大分違います。
330Ω:-3dB=5.8MHz、500Ω:-3dB=25.3MHz
こちらも500Ωの方が良さそうです。

ここで気が付いた方がおられると思いますが、1段目のゲイン(利得、増幅率)がマイナス(-6.4dB、-7.3dB)で、増幅していなくて減衰しています。
このOPアンプは初段にはゲインが無く2段目でゲインを稼いでいる1段アンプなんでしょうね。
1段目でゲインを抑える(低くするか無くす)とスルーレートが良くなるし、ミラー効果も無くなります。
このスルーレートと帯域幅の良さはこの1段目にあります、それより2段目(Q3、Q4、Q5、Q6)の責任は重大です。

2段目の電流に注目して下さい。
OPアンプでアイドリング電流10mAは流し過ぎですが、ここの電流を流すことで各トランジスタの性能を最大限に引き出しています。
そしてお判りの様に2段目はカスコード接続を使っています。
カスコードでミラー効果をカットです。
終段が1mAと少し寂しいB級動作ですね。
自分としては、終段をもう少し電流を流したいです。
それと2段目の電流を少し抑えても良いかと思います。

このLH0032の問題点は、
1段目のゲインが無い分ノイズに対して不利となります。
OPアンプ全体のノイズは、1段目のノイズ特性と1段目のゲインで決まります。
ローノイズアンプには向かないと思いますが如何でしょうか?
もう一つは、アイドリング電流が多いので熱を持ちます。
全体で約19mAの電流です。

追加実験で、Q1とQ2を高gmのFETに交換してシミュレーションしてみました。
■初段のFETを変更(2SK246⇒2SK117)
20190826_06
シミュレーションに使ったFETは2SK246でしたが、ここを2SK117に変えてみました。
ゲインが-6.4dBから+7.6dBに上がりました。14dBのアップです。
カットオフ周波数:2SK246(-3dB=25.3MHz)、2SK117(-3dB=5.5MHz)
ゲインが上がって分、ミラー効果の影響でしょうかカットオフ周波数がだいぶ悪くなりました。

■FET変更(オープンループゲイン)
20190826_07
これだと、ミラー効果も出てくるし、オープンループゲインも上がり位相補償が難しくなりますね。
オープンループゲイン:2SK246(76dB)、2SK117(90dB)
カットオフ周波数:2SK246(-3dB=361kHz)、2SK117(-3dB=133kHz)

機会がありましたら位相補償もシュミレーションしたいと思います。


差動増幅器をディスクリートで組み上げるときには、特性の良く揃った2つのFET(トランジスタ)を選別し熱結合するとよいと思います。
最初からデュアルFETを入手できれば良いのですが、なかなか難しいです。
自分の覚書としてUPしておきます。
図としては左側 ⇒ 右側で完成です。
20190825_01
二つのFET(トランジスタ)は、ズレない様に接着剤で固定します。

そして銅箔テープをFET(トランジスタ)に巻きます。
20190825_02
※銅箔テープの大きさは、縦5mm×横45~50mmの大きさに切ります。

これでも問題無いのですが、二つのFET(トランジスタ)の保温性を保つためスミチューブを被せます。
また時間が経つと銅箔テープが酸化して変色するので見栄えもありますね。
20190825_03
※被せるスミチューブの寸法は、φ7.5mm~φ8mmの径で、長さ10mmです。

なお、熱結合の加工をするとFET(トランジスタ)の型番が分からなくなるので、識別できる目印(マーキング)をしておいた方が良いです。


コレクタ容量(Cob)の小さいトランジスタは種類が限られているし製造中止品も多いです。
そこでコレクタ容量(Cob)で発生するミラー効果の影響を受けない回路が必要となります。

これは皆さんご存知のカスコード接続(カスケード接続)です。
20190823_01
カスコード接続は高周波回路でよく使われる回路ですが、当然オーディオ(低周波)でも効果は有ります。
カスコード接続にもカスコード・ブートストラップ接続と言うのもあります。
右側がそのカスコード・ブートストラップの回路で、ブートストラップとは「ブーツの靴紐」と言う意味だそうです。
Q3からQ4をギューと締め上げる感じでしょうか?

カスコード接続に使われるトランジスタQ2(Q4)はベース接地で使います。
ベース接地のエミッタ入力インピーダンスは数十Ωとかなり小さいです。
それをトランジスタQ1(Q3)のコレクタに接続するとインピーダンスの高いコレクタのインピーダンスがQ2(Q4)の低い入力インピーダンスでダンプされインピーダンスが低くなります。
※エミッタ接地のコレクタ出力のインピーダンスは高い。
そのインピーダンスが低くなった事によりミラー効果による容量の増加が起こらなくなります。

カスコード接続で使うと周波数特性が良い回路が出来ますし、歪みも減ります。
特にカスコード・ブートストラップ接続では、電圧2の電圧でQ3をロックした形になります。
※コレクタ容量(Cob)による歪みは2次歪みを発生させます。


前回、アンプの電源電圧を高くした方がトランジスタのコレクタ容量(Cob)が小さくなると言うことでした。
ではナゼ、印加電圧でコレクタ容量(Cob)が変化するのかです。
トランジスタの構造から少し考えてみましょう。

下の図がトランジスタの簡単な構造図です。
20190815_01
図の上側のNPN型のトランジスタですが、nチャン、pチャン、nチャンのシリコンのサンドイッチ構造をしています。
これをダイオードで表現する事が出来ます。

それが次の図となります。
ダイオードが2個です。
20190815_02
※構造はダイオード2個ですが、ダイオード2個を繋げてもトランジスタとしての働きはしません。高校生の時確認済みです。w
このダイオードの上側に注目して下さい。

そしてダイオードの構造図が次の図です。
20190815_03a
このダイオードに逆電圧を加えると空乏層(くうぼうそう)と言う絶縁部(絶縁層)ができます。
この絶縁部を挟んでカソードとアノード間で僅かな容量を持ちます。
この容量がトランジスタで言うコレクタ容量(Cob)と同じ容量にあたります。
この空乏層は、印加電圧を変えると空乏層の幅が変化します。
空乏層の幅が変ると言う事は、カソードとアノード間の絶縁部の距離(d)が遠くなったり近くなったりする訳です。

下の図の計算式では電極間距離(d)で容量が増えたり減ったりする事になります。
20190815_05
※図はTDKさんからお借りしました。
印加電圧を上げると電極間距離(d)が遠くなるので容量が減り、印加電圧を下げると電極間距離(d)が近くなり容量が増える事になります。

この原理を利用したのがバリキャップダイオード(可変容量ダイオード)です。
ダイオードが可変コンデンサになります。
20190815_04


コレクタ容量が多いと周波数特性を悪くし、歪み特性も悪くすると言うことです。
※補足:コレクタ容量(Cob)の非線形的な充電電流が入力信号に加算され歪みを発生させます。

特性の良いアンプを作る場合は、コレクタ容量(Cob)の小さいトランジスタを採用して電源電圧を高く設定しましょう。
でもコレクタ容量(Cob)の小さいトランジスタ(2SA872/2SC1775,2SA1016/2SC2362)はなかなか入手出来ません。

次回は、コレクタ容量(Cob)の影響を無くす方法を考えましょう。

↑このページのトップヘ